「自分の知らない世界をもっと知ろう!」黒田徹さん(第一三共株式会社 常務執行役員 サプライチェーン本部長)経済学部経済学科 昭和**年卒

  • 日時:7月20日16時〜17時
  • 聞き手・編集:豊田圭一(経済学部 平成4年卒)

今回は今年の4月に経営統合した第一三共株式会社の常務執行役員としてご活躍していらっしゃる黒田徹さんにお話を伺いました。第一製薬、三共との合併の担当者だった立場から、合併に至る裏話からグローバルな社会でどのように生き残っていくかという今後の展望について話していただきます。

豊田:

どのような経緯があって、第一製薬と三共という大きな会社同士の合併ができたのですか?

黒田さん:

私は第一(第一製薬)側の代表だったんですよ。でも、最初は合併という話でスタートした訳ではありませんでした。

製薬業界というのは新薬の創出が生命線で、莫大な研究開発投資を必要としており、しかも欧米でも戦える相応の体力がないと勝ち残っていくのが難しいのです。グローバルに再編が進んでいる中、外資が圧倒的な資本力で国内のシェアを急速に高めてきているため、国内での再編の機運も高まってきて、外資の動向を含め何か起こった時にお互い助け合えることはないだろうかというところから始まったのです。

まずは情報交換から始めようということになって、両者二人ずつの4人で2週間に一度くらいのペースで数ヶ月いろいろと話しました。お互いにプラスになることを探していく中で、「ここまでメリットが大きいのであれば一緒になるということを前提に進めていきませんか?」と流れが変わっていったのです。

なぜ統合しなければならなかったかというと、一つには医療費抑制から日本の医薬品市場が何年も横ばいで、この先も市場は伸びないという状況がありました。そして、そんな中で外資の攻勢が強まり、海外で成功していけるかどうかで将来の成長がはっきりとしていくと思ったからです。

私は経営企画に長くいましたから、そういう状況の中でどこの会社と一緒になったらどうなるだろうというシュミレーションをずっとやって、合併や提携の可能性を探っていました。今回の第一と三共の合併はその結論として、お互いにメリットが大きいというということでそうなったわけです。

豊田:

海外に出て行くという流れの中で、どうやったらグローバルな市場で勝ち残れるのですか?

黒田さん:

グローバルで戦うには新薬の開発が必要です。でも、ものづくりというのはとてもお金と時間がかかるもので、例えば、薬になる素(物質)を探したとしても、それが最終製品として世に出るまで10年、1000億くらいかかってしまいます。だから、会社としての体力が問われるわけです。

でも、日本のメーカーはわずかを除いて自分たちだけで最後までやるだけの体力も経験もない。だから、これまではいいものが出てきても、最終製品に仕上げるためには外にライセンスアウトしてきたのです。そして、結果的においしいところを取られてしまいました。

最終製品まで自分達だけでやりたい!そのために、何年もかけて我々も体力をつけてきたわけですが、グローバルに通用する有望な新薬を見つけ出した中で実際自分達だけでやりたくてもやりきれないという状況がありました。ではどうしたらいいのか?そのときに出てきたのはやはりどこかと手を組むしかないということでした。この状況は他の製薬会社も殆んど同じだろうと思うんです。そして、結果的には第一と三共が合併しました。

合併をしたことで、今後、自分達で最終製品を開発・販売し、海外でも勝負できる体制ができてきたと思っています。

豊田:

合併後の統合の進捗状況を教えてください。

黒田さん:

私は今年の4月からサプライチェーンをみています。日本だけで1700人くらい、7工場、世界で12工場、約2400人の体制ですが、しばらくは旧第一、旧三共がそのまま継続していくので、直接仕事面で変化はありません。

工場以外では旧第一と旧三共が混ざって混成部隊となっていますが、私が関わっている範囲では全然違和感はないですね。

実は、合併する前までは、「本社が東京の新薬メーカー」であるから共通点が多いと思っていました。でも、実際に統合作業をしてみたら全然違っていました。簡単に言えば、サッカーで例えれば旧第一は組織プレーのヨーロッパ型、旧三共は個人技に優れた南米型と言ったらいいでしょうか。協議型の旧第一とトップダウン型の旧三共という感じでした。どちらが良いというのでなく、うまく組み合わせればそうとう強くなるのではないか。もちろん色々なことはありますが、少なくとも私が見ている限り、思った以上にうまくいっていると言っていいと思います。

うまくいった理由としては、たすきがけ人事をやらなかったことや、一緒になるまで時間を置き、綿密に統合作業を続けたことでしょうね。結果的には、新聞に出てから合併するまで2年かけましたから。

豊田:

上智大学での学生生活の思い出を教えてください?大学で学んだことで、今に活きていることはありますか?

黒田さん:

大学時代、勉強をした思い出はないですね(笑)

でも、振り返ってみると、海外とのいろいろな関わりをもてたことがとても良かったと思います。当時、アテネオ・デ・マニラ大学との交流プログラムが始まったのですが、そのプログラムに関わることができ、私自身もフィリピンに行きました。そこで、現地の上層階級の生活に触れることができました。全く別世界ですよ。こんな世界があるんだなという経験をしました。そして、良い悪いは別として上に上がるというのはこういうことなんだということが分かったというか、それが上昇志向につながってるのかなと思います。同時に貧富の差も痛感しましたけどね。

豊田:

(企業人として)後輩へのメッセージをいただけますか?

黒田さん:

今回の統合やその後の子会社の売却などを通じて、実際にM&Aの世界に触れ、同じ経済界でこんな世界があるのかということにビックリしました。村上ファンドも出てきましたからね。それまでも事業の買収や譲渡などでそれなりに知識はあったつもりでしたけど、経験してみて初めて知らない世界というか、異次元の世界を知った感覚です。いい悪いは別にして、実業じゃなく虚業の世界というか…。自分がこれまでやってきたことと全く違う世界を知ったことで学んだこともありますし、様々なネットワークができました。

そういう意味では、外の世界を知れたことはとても良かったですし、これからのビジネスパーソンはどんどん外に出て、ネットワークをつくるべきだと思いますね。そして、私自身まだまだ広げる必要があるだけに、自分の知らない世界をもっともっと知ることが大切だと思います。知らない世界を知ると、自分のもっている世界がいかに狭いかが分かりますよ。

世の中はゲームが出てから変わったんじゃないかと思うことがありますが、ゲームで育った人間とその前の人間では何か違いがあるような気がします。極端な言い方をすると、与えられた世界の中、枠の中でチャレンジするのと、自分達で工夫をしながら何かをしようという違いというか。

そのためにも、仕事をちゃんとやるのは当たり前ですけど、仕事にだけ没頭してちゃダメで、どんどん外に出ていって広く世界を知り、世界に通じる人になってほしいと思います。

豊田:

黒田さん、今日はどうもありがとうございました。

リンク

第一三共株式会社 http://www.daiichisankyo.co.jp/

〜豊田圭一のひとり言〜

黒田さんからは大企業の中枢で長く活躍してこられたオーラが出ていました。大企業同士の合併を成功させ、現在も第一線で大きな組織を率いている黒田さん。大学の先輩としてだけではなく、ビジネスパーソンの先輩としてぜひ目標にしたいと思いました。

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