蛻変の経営〜人生設計と経営戦略|大坂 靖彦
『蛻変(ぜいへん)・・・蝉が幼虫から成虫になるときに脱皮しながら生態変化することをいう。蝉は、この脱皮を自然環境のもとで、本能的現象として行う。 しかし、企業は変化する社会環境のもとで意識的に行わなければならない。低成長時代に突入した今、企業もそしてあなた自身も蛻変(ぜいへん)することが求められている。(帝人故大屋晋三)』
講演のタイトル「蛻変(ぜいへん)の経営」は帝人の故大屋晋三さんから学んだものです。私自身も、私の会社も、そして社員達も、共に蛻変(ぜいへん)して大きく成長してきました。そして「脱皮・変身・成長」という言葉が私の経営する株式会社ビッグ・エスの企業哲学になっています。
電器屋から300億円企業へ
35年前、売上がたった7千万円(1店舗)しかない四国の片田舎の電器屋が、年商300億円の企業に成長し、そして、中期500億円、長期的には1千億円企業を目指す経営基盤が整いつつあります。
1963年、私は香川県高松市の大手前高校を経て上智大学経済学部に入学しました。坂本先生はじめ諸先生、神父さんから多くのことを学びました。ドイチェルリンクや上智会館での寮生活が青春期の私に大きな影響を与えました。しかし何事もうまくいくとは限りません。ドイツ行きを夢見てチャレンジしたドイツ語スピーチコンテストは優勝かなわず2位に甘んじ、留学生試験には落ち、自力で自分の夢の実現を目指し、ヒッチハイクで約1年かけてヨーロッパを中心に20数カ国を巡りました。世界の多くの人々に出会い、それぞれの国の文化を肌で感じ、温かい人情にも触れました。しかし貧乏旅行ですから、大変な苦労をしました。このときの苦労が今の私を支えているのかもしれません。
人生・経営の師との出会い
上智を卒業し、松下電器産業に入社し、海外研修生として入社半年後から約2年間ドイツに滞在しました。そして、そこで人生の師となるヨーロッパ駐在所佐久間J二所長と出会います。それ以来今日まで、私は佐久間さんに支えられています。
1972 年、私は松下電器産業を辞め、香川県長尾町(現さぬき市)の単独店を足がかりに、多店舗化路線へと踏み出しました。そしてボランタリーチェーン(四日電)に加盟、チェーンビジネスの第一歩を踏み出しました。その後、フランチャイズチェーンFC店としてマツヤデンキグループに加盟。大型家電量販店のチェーンビジネスへと進みます 。
FC加盟90数社の売上第一位を達成した後、1995年に、当時中四国ではなじみの薄かったカトーデンキ販売(現在の(株)ケーズホールディングス)のFCになりました。2005年にはFC契約をしていた同社と事業統合により子会社になりました。佐久間さんが人生の師ならば、ケーズデンキの加藤社長は私の「経営の師」と深く尊敬しています。5年、10年ごとに「脱皮・変身・成長」を繰り返し、節目ごとに売上は階段状に大幅に飛躍しました。合従連衡の激しい業界の中にあって、資本消耗戦を勝抜く秘策が選択と集中による「脱皮・変身・成長」、つまりは意識的な「蛻変(ぜいへん)」だったわけです。
「上智デンキ」
成長期の初期段階の1975年、「上智デンキ」の看板を掲げた時期もありました。常に次の10年のビジネスモデルを模索してきた結果、株式会社ビッグ・エスは創業60周年の節目を乗り越え、また、次の10年へ向けて新たな挑戦が始まっています。「大胆にして、細心」「びくびくおどおどの経営」が私の経営信条ですが、節目ごとの大胆な決断を支えるのが、膨大な過去の資料です。「過去に未来を学ぶ」を実戦してきました。20年前には業界トップ20社に名前を連ねた企業の大半が今や倒産。こうした倒産事例研究が生き残りの策を授けてくれています。

社員の潜在能力
この企業成長の過程で、最重要課題の一つが社員教育です。「企業の成長は社員の成長なくして無し」といっても過言ではありません。一人一人の社員の持つ潜在能力を徹底的に引っ張りだし、企業の「脱皮・変身・成長」に合わせて社員の「脱皮・変身・成長」を促しました。企業の成長と共に彼らは変身し、大きく成長しつつあります。私は、会社は「社員の能力を磨く道場」と位置づけ、内観研修、IT研修、チャレンジポスト、合言葉・・・・等々、社員の成長にとってプラスになることは何でも試みてきました。
その核となるのが「人生設計プラン」です。オリジナル手帳に「個人、家族、会社」の一年後、十年後、三十年後、そして死に至るまでの夢や目標とその実現のための行動計画を書き込んで、夢の実現に向けて日々、行動するのです。こうやって、社員たちは自分の夢の実現に向けて一歩一歩あゆみはじめています。このように目的意識を明確にした、戦う集団がこれからの10年、20年を支えてくれると信じています。
日独交流の絆を-
経鷲会で講演をさせて頂いた後、私自身のこれからの人生設計を明確にし、次のステップを実現するために『非営利株式会社ビッグ・エス インターナショナル』を設立しました。商号が示しますように非営利を目的とした法人です。
非営利型を目的として設立された株式会社は全国に数社あるようですが、名実ともに「非営利株式会社」を冠し、法務局に登記された企業はおそらく全国でも初めてではないかといわれております。この新会社はドイツとの交流を軸として、ドイツ語スピーチコンテストや、ドイツ国オーバーハウゼンにある「国際平和村」への支援活動、中小企業経営者や起業家育成支援事業や、青少年の人生設計構築の支援、リタイア後のアクティブ活動の企画や支援、会員制ドイツワインの樹頒布会の実施等を計画しております。
第7回ドイツ語スピーチコンテストは本年10月12日(金)ドイツ大使館での開催が決定いたしました。第一回コンテストのときは上智大学の戸川先生(故人)に審査委員長をお願いするなど、上智とは縁の深いコンテストです。今後も上智諸先輩のご支援のもと、日独交流の絆をより深めて参りたいと思います。
(株式会社ビッグ・エス、非営利株式会社ビッグ・エス・インターナショナル各代表取締役)
* 本稿は昨秋上智大学経鷲会定時総会での講演を、講師にお願いしてまとめていただいたものである。

