素晴らしき企業・素晴らしき仲間
アリゾナ大学院の経済修士課程を卒業し、アメリカの化学会社モンサントに入社しました。それから数年後、当時は世界最大の半導体メーカーであっ たTI(テキサス・インスツルメンツ) に転職したのが1979年。そして80 年 代に入り、TI は日本企業にトップの地位を奪われ、90年代の初頭まで厳しい岐路に立たされていました。当時の混沌としたTIのビジネス環境の中で社員として働いたことは、いまでも記憶に新しい。それ以来、 企業のリエンジニアリング(リストラ)と、4年に一度のシリコンサイクルといわれる半導体不況の中で、TI は何回もダ ウンサイジングを実施し、アメリカの企業の厳しい対応を経験してきました。
「企業倫理、誠実さ、成せば成る」
そんな中、TI の基本というべき哲学は「企業倫理、誠実さ、成せば成る」でありました。一見、何の変哲もない企業文化に見えましたが、TIはこの基本をいかなるビジネス環境の下でも変えることなく、私もその基本を軸足として4半世紀以上をビネスマンとして過ごしてきました。いま、当時のこと を静かに振り返っているところです。
思いおこせば、TIに入社して間もないころ、私を採用してくれた上司から怒鳴られたことがあります。(それで、おそ らく首になると思ったほどです)。私がある件で“ そんな事は不可能” と言った途端、上司は「君に出来ないことはない! もう一度よく考えて出直して来い!」と一喝されました。
上司のそんな激怒に対し、なにもそこまでと思ったものです が、いわゆるテキサス人魂というやつで、このとき習ったcandoの精神は、いまも私の精神のよりどころとして深く根付いています。つまるところ、上司が理不尽な要求を強いているわけでもなく、私自身があまりにも甘えた気持ちと態度で仕事に接していたことを、彼のリードとコーチで勉強させてもらいました。しかも、彼は持ち前の誠実さで、ビジネスマンとして未熟な私をあらゆるところでサポートしてくれたことは、特に感慨深いものがあります。それ以来、この会社の仲間たちとの信頼関係を深くするのですが、そこには、この上司を中心とした TI 特有の文化が根付いていたのでした。
行動規範としてのTIの価値と倫理
それは、行動規範としてのTIの価値と倫理です。以下にその一端を紹介してみたいと思います。(TI の規範を抜粋しました。)
- 私たちはお互いを尊敬し、認め合います。そしていつも正直であります。(誠実)
- 私たちは学び、そして創造し、果敢に行動します。(革新)
- 私たちは責任をまっとうします。そして競争に勝つことを 誓います。(コミットメント)
- そして、正しいことを知ろう、正しいことを尊重しよう、 正しいことをしよう。
簡単ではありますが、この基本的なことがTIの文化なのです。爾来、仕事やプライベートな親交を通じて、これらのことを実感してきました。
今は私も含め、ほとんどの友人がTIを退社していますが、いまだに、TI卒業生としてかつての上司を含む4人が年に一度は会う機会を持っています。ときには、テキサスで、フラン スのニースで、カリブ海で、東京でという具合に、これらの4拠点の各地で順番に場所を変えて再会し、あの頃の苦しかったこと、楽しかったことを語り合っています。TIの四銃士といったところでしょうか。
現在、私は大手製薬会社米国メルク社の日本法人、万有製薬に勤務しております。このメルク社にも家訓のようなものがあります。1950 年に米国メルク社二代目のジョージ・W・メル クが、米国の大学で講演した時に語った一節がそれです。
「 医薬品は人々のためにあるのであり、利益のためにあるのではないことを決して忘れてはならない。利益は結果として得られるものである。そして、このことを我々が銘記していれば、利益が失われることは決してないであろう。どのようにすれば全ての人々に最良の医薬品を届けることができるだろうか。その答えを見出し、最高の成果を全人類にもたらすまでは休むことは出来ない。」
この当たり前と思える言葉の中に、医薬品メーカーの含蓄があると思われてなりません。私が過ごしたTIと今いる会社とは、企業と企業人の行動規範において、どこか相通じるものがあります。投機的な思惑の中にひそむ利益至上主義や、倫理観の衰退(欠落)によるとしか思えない企業のいろいろな不祥事が起こっている昨今、上のようなコーポレートカルチャーと共に生きている私は非常に幸運だと思っています。
(万有製薬株式会社シニアディレクタ−、当会広報委員長)

